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「未経験を1人採ると、育成にいくらかかるのか」
「研修費は見積もれるが、現場の負担をどう数字にすればよいのか分からない」
この記事は、そんな課題を持って「未経験採用 育成コスト」と検索した採用の予算を立てる立場の方のために書きました。
結論から言うと、公的な統計が「費用」として拾っているのは研修費だけで、労働者1人当たり年2.0万円です。育成コストの本体はここではありません。厚生労働省の調査で、人材育成に問題があるとした事業所の59.5%が「指導する人材が不足している」、45.5%が「人材育成を行う時間がない」を挙げています。かかっているのはお金ではなく、人の時間です。
この記事では、統計で分かる研修費の水準、そこに入っていないもの、育成コストを3つに分けて自社で見積もる方法、現場工数の出し方、下げ方の順に解説します。
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公的統計で分かる「研修費」の水準
まず、数字が出ている部分から押さえます。厚生労働省の「能力開発基本調査」が、企業が教育訓練に支出した費用を毎年集計しています。

| 項目 | 令和7年度調査 | 前回(令和6年度調査) |
|---|---|---|
| OFF-JTに支出した費用(労働者1人当たり平均額) | 2.0万円 | 1.5万円 |
| 自己啓発支援に支出した費用(同) | 0.4万円 | 0.4万円 |
| OFF-JTに費用を支出した企業の割合 | 50.1% | 49.4% |
| OFF-JTまたは自己啓発支援に支出した企業の割合 | 54.4% | 54.9% |
OFF-JTは、通常の業務を離れて行う教育訓練のことです。外部研修、集合研修、eラーニングなどが入ります。労働者1人当たりの平均額は年2.0万円。前回から0.5万円上がっていますが、水準としてはこの程度です。
注意点が1つあります。この2.0万円は「費用を支出した企業」の平均額です。支出していない企業も含めた全体の平均ではありません。そして支出した企業は50.1%、つまり半分です。
正社員向けの支出実績を過去3年間で見ると、もっとはっきりします。
| 正社員へのOFF-JT費用 | 過去3年間の実績 | 今後3年間の見込み |
|---|---|---|
| 増加した/増加させる予定 | 24.6% | 34.3% |
| 増減なし | 20.0% | 22.8% |
| 減少した/減少させる予定 | 6.9% | 1.7% |
| 実績なし/実施しない予定 | 48.4% | 41.0% |
正社員に対してOFF-JTの費用を3年間まったく使っていない事業所が48.4%あります。正社員以外に対しては72.2%が実績なしです。
ここから言えるのは1つです。「研修費の相場」を探しても、自社の育成コストの見積もりにはほとんど使えません。半分の企業は0円で、残り半分も年2万円前後だからです。
2.0万円に入っていないもの
では実際のコストはどこにあるのか。同じ調査の別の設問に、はっきり出ています。

| 能力開発・人材育成の問題点(複数回答・主なもの) | 割合 |
|---|---|
| 指導する人材が不足している | 59.5% |
| 人材を育成しても辞めてしまう | 51.6% |
| 人材育成を行う時間がない | 45.5% |
「問題がある」とした事業所は80.1%で、その内訳の上位3つがこれです。お金が足りないという項目は上位に来ていません。足りないのは指導する人と、その時間です。
計画的なOJTの実施率も見ておいてください。
| 計画的なOJTを実施した事業所 | 令和7年度調査 | 前回 |
|---|---|---|
| 正社員に対して | 60.6% | 61.1% |
| 正社員以外に対して | 25.1% | 27.1% |
正社員向けで60.6%、しかも前回から0.5ポイント下がっています(正社員以外は2.0ポイント低下)。OFF-JTを受講した労働者も37.3%(正社員44.5%)にとどまります。
つまり現場の実態は「計画的な育成が3〜4割はそもそも無い」ところから始まっています。未経験を採るということは、この状態に育成の工数を上積みするということです。その上積み分が、見積もりから抜けやすい部分です。
育成コストを3つに分けて見積もる
1つの金額で出そうとすると必ず外れます。分けてください。そのまま使えるように記入式にしてあります。

| 項目 | 出し方 | 自社の値 | |
|---|---|---|---|
| A | 研修費(外部研修・教材・eラーニング・資格受験料) | 見積書どおり。発生しない年もある | 円 |
| B | 指導工数(指導者が育成に使う時間の人件費) | 指導者の時間単価 × 週の指導時間 × 週数 | 円 |
| C | 立ち上がり期間の差(本人の人件費のうち、まだ成果に結びついていない分) | 本人の月額人件費 × 期間 × 未到達の割合 | 円 |
| 合計 | A+B+C | 円 |
Aは見積書があるので、そのまま入ります。問題はBとCです。
B(指導工数)が最大の項目になることが多くあります。週に5時間の指導を半年続けると、それだけで約130時間(5時間 × 26週)。指導するのは手が空いている人ではなく、だいたい現場の中心にいる人です。その人の時間単価で計算してください。
Cは「損失」ではなく「期間」として扱ってください。未到達の割合を細かく置いても精度は上がりません。3か月・6か月・12か月の3点で、到達点に対してどのくらいかを置けば十分です。到達点の決め方は未経験エンジニアの育成計画にまとめています。
採用そのものにかかるコスト(求人媒体・紹介手数料・自社工数)は別の記事です。エンジニア採用コストの相場の見積もりシートと、この表を足すと総額になります。
Bの出し方|指導工数を金額にする
ここを「だいたい」で済ませると、見積もりが半分以下になります。3つ決めれば出ます。
| 決めるもの | 決め方 | よくある外し方 |
|---|---|---|
| ① 指導者の時間単価 | 年収ベースの人件費 ÷ 年間所定労働時間。法定福利費を含める | 本人の給与だけで計算して、実額より低く出る |
| ② 週の指導時間 | 定例の時間だけでなく、質問対応とレビューを含める | 定例の1時間だけを数え、割り込みの時間を落とす |
| ③ 期間 | 到達点が達成されるまで。3か月・6か月・12か月で区切る | 「3か月で独り立ち」を前提に置いて、延びた分が見えなくなる |
②がいちばん落ちます。コードレビューと質問対応は予定表に乗らないので、実績として残りません。週の指導時間を決めるときは、指導者に1週間だけ実測してもらうのが早い方法です。
もう1つ。指導者を1人に決めていないと、Bは出せません。複数人が手の空いたときに教える形だと、合計時間を誰も把握していない状態になります。これは見積もりの問題であると同時に、育成そのものの問題でもあります。
育成コストを下げる3つの打ち手
下げられるのは、ほぼBです。AとCは構造的に決まる部分が大きく、Bだけが設計で動きます。
| 打ち手 | 効く理由 | 先に決めること |
|---|---|---|
| ① 到達点を文章にする | 教える人ごとに基準が変わらなくなり、同じ説明を繰り返す時間が減る | 3か月後に何ができていればよいかを1文で |
| ② 指導を1人に集約し、工数に入れる | 割り込みの指導が減る。指導者の評価にも入れる | 担当者と、週あたりの時間枠 |
| ③ 入口で「学習の過程を説明できるか」を見る | 詰まったときに自分で言語化できる人は、指導時間が短くて済む | 選考で何を聞くか |
①と②は受け入れ側の話、③は採用側の話です。③の具体的な見方は未経験エンジニアの見極め方に、選考の進め方はエンジニアのポテンシャル採用とはにまとめています。
なお、統計で2番目に多かった「人材を育成しても辞めてしまう」(51.6%)は、育成コストそのものではなく回収できるかどうかの問題です。ここはエンジニアの早期離職で別に扱っています。
やってはいけない見積もり方
3つだけ挙げます。どれも後から効いてきます。
| やってはいけないこと | 何が起きるか |
|---|---|
| 「研修費◯万円」だけで予算を立てる | 最大項目のBが丸ごと抜ける。現場から「聞いていない」と言われる |
| 他社の相場を自社に当てはめる | 指導者の単価も体制も違う。公的統計の2.0万円も、支出した企業だけの平均 |
| Bを現場の善意で吸収させる | 指導が評価されないので後回しになる。結果として期間が延び、Cが増える |
3つ目が最も多く、最も高くつきます。Bを工数として認めないと、Bが消えるのではなく、Cに移るだけです。
採れない原因そのものを確かめたい場合はエンジニアの採用手法を比較とエンジニアが採用できない理由もあわせてご覧ください。
よくある質問
未経験1人あたりの育成コストの相場はいくらですか?
1つの金額で示せる相場はありません。公的統計で出ているのはOFF-JTに支出した費用の労働者1人当たり平均額2.0万円だけで、これは費用を支出した企業(50.1%)の平均です。育成コストの本体である指導工数は、指導者の時間単価と指導時間で決まるため、企業ごとに大きく変わります。本記事のA・B・Cで分けて出してください。
研修費をかけない方針でも問題ありませんか?
正社員に対して過去3年間OFF-JTの費用実績が無い事業所は48.4%あるので、珍しいことではありません。ただし研修費を0にしても、指導工数が0になるわけではありません。外部研修で済んでいた部分が現場の時間に置き換わるだけなので、Bが増えていないかを確認してください。
指導工数はどのくらい見込めばよいですか?
標準値は示せません。扱う技術と受け入れ体制で変わるためです。見込みを置く前に、指導者に1週間だけ実測してもらってください。定例の時間だけでなく、質問対応とコードレビューを含めて数えると、想定より多いことがほとんどです。その実測値を週数で掛ければBが出ます。
育成コストと採用コストはどう分けますか?
入社日で区切ってください。入社までにかかったもの(求人媒体・紹介手数料・選考の自社工数)が採用コスト、入社後にかかるもの(研修費・指導工数・立ち上がり期間)が育成コストです。予算を取るときは両方を足した総額で見ないと、入社後の工数が誰の予算にも乗らないまま始まります。
未経験エンジニアの採用をお考えなら
ここまで書いてきたとおり、育成コストのうち動かせるのは指導工数です。そして指導工数は、入ってくる人が自分の詰まりどころを説明できるかどうかでかなり変わります。
RaiseTech Talentは、未経験エンジニアに特化した人材紹介サービスです。当スクールの受講生について、何をどう学び、どこで詰まり、どう解決したかという学習の過程までお伝えできます。経歴書だけでは分からない部分を、受け入れ後の指導の見積もりにもお使いいただけます。
紹介できるのは、次の2コースの受講生です。AIエンジニア育成コースは、未経験からAI駆動開発を4か月で学んだ受講生。AWSコースは、クラウドインフラを学んだ受講生です。どちらの卒業生かは、ご紹介の際にお伝えします。
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まとめ|研修費ではなく、指導する人の時間が本体
この記事のポイントを3つにまとめます。
- 公的統計が拾っている「費用」は研修費だけで、労働者1人当たり年2.0万円。しかもこれは費用を支出した企業(50.1%)の平均で、正社員に3年間まったく支出していない事業所が48.4%あります。相場を探しても見積もりには使えません
- 人材育成の問題点の上位は、指導する人材の不足(59.5%)、育成しても辞めてしまう(51.6%)、時間がない(45.5%)。足りないのはお金ではなく人の時間です
- A研修費・B指導工数・C立ち上がり期間に分けて出す。最大項目はBで、下げられるのもBだけです。到達点を文章にし、指導を1人に集約して工数に入れてください
出典:厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査 調査結果の概要」(公表 2026年7月31日/2026年11月1日取得)。OFF-JT費用・自己啓発支援費用の労働者1人当たり平均額は令和6年度1年間に費用を支出した企業の平均額です。企業調査は令和7年10月1日現在の状況、個人調査は令和7年11月15日〜12月16日に実施されたものです。
この調査は全産業が対象で、IT業界やエンジニア職に限ったものではありません。また「能力開発や人材育成に関する問題点」は複数回答で、分母は問題があるとした事業所(80.1%)です。本記事のA・B・Cという分け方は公的な定義ではなく、見積もりのために本記事で整理したものです。
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